訴訟における留置権の抗弁の提出
単に留置物を占有するにとどまらず、留置権に基づいて目的物の引渡しを拒絶するにあたり、被担保債権の存在を主張する場合には、留置権の行使とは別個に被担保債権の権利行使が必要となる。そこで、判例は、訴訟において、留置権の抗弁を提出した場合、留置権の発生・存続には被担保債権の存在を主張することが必要であり、このような抗弁の中には被担保債権についての権利行使の意思が表示されているとして、訴訟係属中、「催告」あるものとして、その限度で消滅時効中断の効力を肯定した。
留置権の効力
留置的効力
留置権者は、目的物を被担保債権の弁済を受けるまで留置することができる。留置権の中心的効力である。
目的物の継続利用と留置物の管理義務との関係
- 留置権者は、目的物の占有にあたっては善管注意義務を負う。
- 留置権者は、債務者(所有者)の承諾がなければ、留置物の使用・賃貸・担保供与をなしえない。
- 以上に反すると、債務者(所有者)は留置権の消滅を請求しうる。(当然に消滅するわけではないことに注意)
- しかし、留置権者は目的物の保存に必要な行為はなしうる。
- 借家人が修繕費の担保のために、借家契約終了後、借家を留置する場合に、従前どおり居住を継続することは、保存行為として許される。
借家の場合については、地上建物を第三者に賃貸することは、保存に必要な行為ではない。また、船舶上の留置権に基づき船舶を遠距離航行させることも、保存行為とはいえない。 - 保存行為として留置物の継続利用が許される場合、留置権者は、賃料相当額を不当利得として返還しなければならない。使用収益を留置権者に保有させる理由はないからである。
判例
債務者の使用の承諾後の留置物の所有権移転と留置権の消滅請求
留置物の使用の承諾は、留置物に関する債務者の処分行為の一つである。したがって、留置物の所有権が債務者から第三者に移転した場合において、新所有者が留置物の所有権取得について対抗要件を具備するよりも前に留置権者が債務者から留置物の使用の承諾を受けていたときは、新所有者は、留置権者に対し、留置物の使用を理由に留置権の消滅請求をすることができない。
第三者に対する効力
- 留置権は、物権であるから、いったん留置権が成立した後に目的物が第三者に譲渡された場合、第三者に対して留置権を主張しうる。
- 第三者への対抗力は、他の債権者による競売の場合にも民事執行法によって認められている。
留置権行使の効果
- 目的物返還請求訴訟において被告が留置権を行使した場合、引換給付判決がなされる。留置権者はこれで目的を達することができるからである。
引換給付判決→詳しくは民事執行法でやりますが、原告の債務の履行と引換えに被告に対し給付を命ずる判決をいいます。 - 留置権を行使しても、債権の消滅時効の進行を妨げない。留置権の行使と債権の行使とは異なるからである。
果実収取権
- 留置権者は、留置物より生ずる果実(天然果実・法定果実)を収取して、他の債権者に優先して、これを債権の弁済に充当することができる。
- 収取された果実は、利息・元本の順に充当される。
費用償還請求権
- 留置物につき必要費を支出したときは、所有者に全額償還請求が可能。
- 有益費を支出したときは、その価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、支出した金額又は増加額のいずれかを償還請求することができるが、所有者の請求により相当の期限が許与されることがある。
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占有者の費用償還請求権の場合は、悪意の占有者の費やした有益費についてのみ期限の許与がなされうることと比較する。
判例
留置権者が必要費の償還請求権を被担保債権として建物を留置中、留置物についてさらに必要費を支出した場合は、すでに生じている費用償還請求権とともに、右建物について留置権を行使することができる。
消滅
物権一般の消滅事由・担保物権一般の消滅事由(被担保債権の消滅等)
留置権特有の消滅事由
- 留置権者の義務違反に基づく債務者(所有者)による消滅請求
この消滅請求は、一種の形成権であり、その意思表示により当然に留置権消滅の効果を生ずる。
判例は、298条1項2項の違反行為があるときは、違反行為が終了しているか否かを問わず、また、損害の有無を問わず、消滅請求しうるとしている。 - 相当担保の供与による消滅請求
担保は物的担保でも人的担保でもよい。
※ 留置権によって担保される債権額は一般に目的物の価格に比較して僅少な場合が多いことから、債権者と債務者間の不公平を是正するため、認められています。なお、この消滅請求には、留置権者の承諾又はこれに代わる判決を得る必要があります。 - 占有の喪失
占有が侵害された場合、占有回収の訴えによって占有が回復したときは、占有は喪失しなかったことになる。
占有は間接占有でもよい。したがって、留置権者が留置物を賃貸又は担保(質権)に供しても、留置権は消滅しない。
※詐取や遺失による場合には占有回収の訴えをすることができないことに注意