最昭38.12.24|善意の不当利得,金利

昭和35(オ)674
事件名 不当利得返還請求

判示事項

  1. 銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益と民法第189条(善意の占有者による果実の取得)の適用の有無。
  2. 銀行業者が不当利得した金銭によつて得た法定利率による利息相当額以内の運用利益につき返還義務があるとされた事例。
  3. 不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益についての返還義務の範囲。

裁判要旨

  1. 銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益については、民法第189条第1項の類推適用により同人に右利益の収取権が認められる余地はない
  2. 第1項の運用利益が商事法定利率による利息相当額であり損失者が商人であるときは、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が不当利得された財産から当然取得したであろうと考えられる収益の範囲内にあるものと認められるから、受益者は、善意のときであつても、これが返還義務を免れない
  3. 不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益については、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が右財産から当然取得したであろうと考えられる範囲において損失があるものと解すべきであり、その範囲の収益が現存するかぎり、民法第703条により返還されるべきである。

~~~~~~

(1)破産した会社が、銀行(被上告人)に対し債務を負担していないにもかかわらず その弁済として約530万円を支払つたから、

  1. これにより銀行は法律上の原因なくして右金員に相当する利益を受け、破産会社に同額の損失を及ぼしたものであること、
  2. 銀行はこの約530万円を運営資金(貸付原資)として利用することにより、少なくとも商事法定利率(年6%)による利息相当の「運用利益」〔銀行は「臨時金利調整法」により預金金利に制限が掛けられているので、その最高限である所定の一箇年契約の定期預金の利率の制限内に限る〕を得ており、右利益は現存していることを原審がそれぞれ認定判示しているという事案で、この場合「運用利益」を返還すべきか否か を判示したものです。

(2)判例
『不当利得における善意の受益者が利得の原物返還をすべき場合については、占有物の返還に関する民法189条1項を類推適用すべきであるとの説があるが、かかる見解の当否はしばらくおき、前記事実関係によれば、本件不当利得の返還は価格返還の場合にあたり、原物返還の場合には該当しないのみならず、前記運用利益をもつて果実と同視することもできないから、右運用利益の返還義務の有無に関して、右法条の適用を論ずる余地はないものといわなければならない。

すなわち、たとえ、被上告人が善意の不当利得者である間に得た運用利益であつても、同条の適用によつてただちに被上告人にその収取権を認めるべきものではなく、この場合右運用利益を返還すべきか否かは、もつぱら民法703条の適用によつて決すべきものである。

そこで、進んで本件におけるような運用利益が、民法703条により返還されることを要するかどうかについて考える。

およそ、不当利得された財産について、受益者の行為が加わることによつて得られた収益につき、その返還義務の有無ないしその範囲については争いのあるところであるが、この点については、社会観念上受益者の行為の介入がなくても不当利得された財産から損失者が当然取得したであろうと考えられる範囲においては、損失者の損失があるものと解すべきであり、したがつて、それが現存するかぎり同条にいう「利益ノ存スル限度」に含まれるものであつて、その返還を要するものと解するのが相当である。

本件の事実関係からすれば、少なくとも上告人〔破産管財人〕が主張する前記運用利益は、受益者たる被上告人の行為の介入がなくても破産会社において社会通念に照し当然取得したであろうと推認するに難くないから、被上告人は かりに善意の不当利得者であつてもこれが返還義務を免れないものといわなければならない。

してみれば、右運用利益につき、被上告人が善意の不当利得者であつた期間は、民法189条1項によりこれが返還義務のないことを前提として、上告人の本訴請求中被上告人の不当利得した金員合計5,392,924円に対するその各受領の日の翌日より昭和29年6月21日までの運用利益の支払を求める部分を棄却した原判決は、右の点に関する法令の解釈適用を誤つたものといわなければならない。』 とします。

(3)そうすると、「仮執行宣言付きの勝訴判決を得た債権者」に対して、執行を避けるために債務者が任意に行った弁済は、後日控訴審で逆転判決が出た場合は、当該弁済金が不当利得となるのは勿論、債権者に弁済金の運用益(法定利息相当額)が現存している(債権者が不当利得を返還すべき時点で無資力に陥っていない)とすれば、その運用益相当額は、不当利得された財産から損失者が当然取得したであろうと考えられるので、例え債権者が善意の不当利得者であっても、当然にその返還をも要するという事になります。

このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア




シェアする

フォローする