最昭41.07.28|仮想譲渡と不法原因給付

【判決要旨】

会社が債権者からの差押をうけるおそれがあつたので、第三者が会社の財産管理、処分の任にあたつていた取締役と図り、会社所有の不動産につき売買を仮装して、自己の名義に所有権移転登記手続を経由した場合において、やがて会社に対し不動産の所有名義を返還すべきことを知悉していたなど、判示事実関係のもとでは、第三者は民法第708条本文にいう不法原因給付を主張して不動産名義の返還請求を拒むことができない

原審の認定した事実によれば、先に上告人は弁護士でないのにかかわらず弁護士であるといつて、被上告会社の代表取締役であつたAに対し慰籍料を請求したことのあるものであるが、これを機会にAと知合い、遂にA方に寄食するに至り、次いで被上告会社の財政状態が不良に陥り、その所有財産が債権者から差押を受ける虞が生じたところ、上告人は当時被上告会社の財産管理、処分の任に当つていた取締役Bと図り、被上告会社所有の本件不動産について売買を仮装して、昭和8年10月5日上告人名義にその所有権移転登記をしたというのであつて、右認定は挙示の証拠によつて肯認し得るところである。しかして右認定の事実関係の下においては、当事者は右不動産について所有権移転の意思を欠き、上告人としてはやがて被上告会社に対し本件不動産の所有名義を返還すべきことを知悉していたものというべきである。

思うに、刑法は強制執行を免れる目的をもつて財産を仮装譲渡する者を処罰するが(刑法96条Ⅱ)、このような目的のために財産を仮装譲渡したとの一事によつて、その行為がすべて当然に、民法708条にいう不法原因給付に該当するとしてその給付したものの返還を請求し得なくなるのではない(最高裁判所昭和33年民集16巻7号1305頁参照)(もつとも本件の仮装譲渡の行われた昭和8年10月5日当時は、右刑法の新設規定施行前であり、従つて、本件行為は犯罪を構成していない)。

しかして、今本件についてみるに、前示認定の事実関係の下においては、被上告会社の右不動産についての返還請求を否定することは、却つて当事者の意思に反するものと認められるのみならず、一面においていわれなく仮装上の譲受人たる上告人を利得せしめ、他面において被上告会社の債権者はもはや右財産に対して強制執行をなし得ないこととなり、その債権者を害する結果となるおそれがあるのである。これは、右刑法の規定による仮装譲渡を抑制しようとする法意にも反するものというべきである。しからば、本件について、前記仮装譲渡は民法708条にいう不法原因給付にあたらないとした原審の判断は正当として是認すべきである。

民法
(不法原因給付 / Performance for Illegal Causes)
第708条

不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。
Article 708 A person who has tendered performance of an obligation for an illegal cause may not demand the return of the thing tendered; provided, however, that this shall not apply if the illegal cause existed solely in relation to the Beneficiary.

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