最昭35.07.06|裁判を受ける権利と公開

調停に代わる裁判に対する抗告申立棄却決定に対する特別抗告事件

(事実)

東京・中野の本件家屋について、所有者Xの一家がYに賃貸した。戦後、X一家は本件家屋に居住したいと考えてYに明け渡しを求めた。その際Yの態度は曖昧であったため、X一家は同居する方向で話がついたと考え、家屋の一部に入居した。同居を認めないYとの間で争いとなり、盗みや暴行脅迫などの告訴をしたりと、感情的な紛争が絶え間なく続いた。そこでXはYに家屋明渡などを求めて訴えを提起し、Yも反訴を提起した。

東京地裁は両訴えを調停により処理する旨決定し、調停に代わる決定としてYの立ち退きを命じた。Yが抗告し、さらに特別抗告した。

(判旨)

破棄差戻
「憲法は32条において、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないと規定し、82条において、裁判の対審及び判決は、対審についての同条2項の例外の場合を除き、公開の法定でこれを行う旨を定めている。即ち、憲法は一方において、基本的人権として裁判請求権を認め、何人も裁判所に対し裁判を請求して司法権による権利、利益の救済を求めることができることとすると共に、他方において、純然たる訴訟事件の裁判については、前記のごとき公開の原則の下における対審及び判決によるべき旨を定めたのであつて、これにより、近代民主社会における人権の保障が全うされるのである。従つて、若し性質上純然たる訴訟事につき、当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が、憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び判決によつてなされないとするならば、それは憲法82条に違反すると共に、同32条が基本的人権として裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない。

ところで、金銭債務臨時調停法7条1項は、同条所定の場合に、裁判所が一切の事情を斟酌して、調停に代え、利息、期限その他債務関係の変更を命ずる裁判をすることができ、また、その裁判においては、債務の履行その他財産上の給付を命ずることができる旨を定め、同8条は、その裁判の手続は、非訟事件手続法による旨を定めており、そしてこれらの規定は戦時民事特別法19条2項により借地借家調停法による調停に準用されていた。しかし、右戦時民事特別法により準用された金銭債務臨時調停法には現行民事調停法18条(異議の申立)、19条(調停不成立等の場合の訴の提起)のような規定を欠き、また、右戦時民事特別法により準用された金銭債務臨時調停法10条は、同7条の調停に代わる「裁判確定シタルトキハ其ノ裁判ハ裁判上ノ和解ト同一ノ効力ヲ有ス」ることを規定し、 民訴203条は、「和解……ヲ調停ニ記載シタルトキハ其ノ記載ハ確定判決ト同一ノ効力ヲ有ス」る旨を定めているのである。しからば、金銭債務臨時調停法7条の調停に代わる裁判は、これに対し即時抗告の途が認められていたにせよ、その裁判が確定した上は、確定判決と同一の効力をもつこととなるのであって、終局当事者の意思いかんに拘らず終局的になされる裁判といわざるを得ず、そしてその裁判は、公開の法廷における対審及び判決によってなされるものではないのである。

よって、前述した憲法82条、32条の法意に照らし、右金銭債務臨時調停法7条の法意を考えみるに、同条の調停に代わる裁判は、単に既存の債務関係について、利息、期限等を形成的に変更することに関するもの、即ち性質上非訟事件に関するものに限られ純然たる訴訟事件につき、事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定する裁判のごときは、これに包含されていないものと解するを相当とするのであって、同法8条が、右の裁判は「非訟事件手続法ニ依リ之ヲ為ス」と規定したのも、その趣旨にほかならない。

(中略)本件訴は、その請求の趣旨及び原因が第一審決定の摘示するとおりで、家屋明渡及び占有回収に関する純然たる訴訟事件であることは明瞭である。しかるに、このような本件訴に対し、東京地方裁判所及び東京高等裁判所は、いずれも金銭債務臨時調停法7条により調停に代わる裁判をすることを正当としているのであつて、右各裁判所の判断は、同法に違反するものであるばかりでなく、同時に憲法82条、32条に照らし、違憲たるを免れないことは、上来説示したところにより明らかというべく、論旨はこの点において理由あるに帰する。従つて、昭和24年(ク)第52号事件につき、同31年10月31日になされた大法廷の決定(民集10巻10号1355頁以下)は、本決定の限度において変更されたものである。

(補足意見、反対意見は略)

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