最平06.07.14|著しく不公正新株発行の効力

著しく不公正な方法によってされた新株発行の効力(最平6.7.14)

新株発行は、会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、新株の発行は有効であり、また、発行された新株がその会社の取締役の地位にある者によって引き受けられ、その者が現に保有していること、あるいは、新株を発行した会社が小規模で閉鎖的な会社であることはこの結論に影響を及ぼすものではない。

いわゆる不公正発行が新株発行の無効事由に当たるかどうかが問題になった事案

事実関係(概要)

Y株式会社は、創業以来、Xのワンマン会社であって、Xが発行済株式の過半数を有して代表取締役に就任していた。

ところが、Xが健康を害してから、Y会社の取締役であったAは、その業務全般を取り仕切っていたが、その後の営業成績が不振ということもあってXと不仲になり、その信頼を失ったことから、Xが株主総会を招集してY会社を解散する決議をしたり又はAを解任する決議をすることを恐れるに至った。

そこで、Aは、これを阻止する目的をもって、専ら、XからY会社の支配権を奪い取り、A及びAの側に立つ者が過半数の株式を有するようにするために、まず

(1)取締役会を開催して自らが代表取締役に選任される旨の決議を経て代表取締役に就任し、次いで当時入院中であったXに招集通知をしないで
(2)取締役会を開催し、本件新株発行の決議を得て、Xに秘したまま右新株を発行し、右決議においては新株の募集の方法は公募によるものとされていたが(公募に応ずる者はなかったので)、その全部を自らが引き受けて払い込んだ。

その結果、A及びAの側に立つ者の持株の合計が過半数を超え、Xとの立場は逆転した。
そのため、Xは、

〈1〉右の(2)取締役会は、その招集通知が当時の代表取締役であるXに対してされておらず同人も出席していないので不適法であり、このように瑕疵のある取締役会での新株発行決議に基づく本件新株発行は無効である、〈2〉本件新株発行は、Aがこれを全部自ら引き受け、自己の株式持分比率を高めて実質上自らがY会社を支配できるようにする目的の下にしたものであり、著しく不公正な方法によりされたものであるから無効である旨主張して、右新株発行の無効を求める訴えを提起した。

判決要旨

新株発行は、株式会社の組織に関するものであるとはいえ、会社の業務執行に準じて取り扱われるものであるから、右会社を代表する権限のある取締役が新株を発行した以上、たとい、新株発行に関する有効な取締役会の決議がなくても、右新株の発効が有効であることは、当裁判所の判例1)最高裁昭和三二年(オ)第七九号同三六年三月三一日第二小法廷判決・民集一五巻三号六四五頁の示すところである。

この理は、新株が著しく不公正な方法により発行された場合であっても、異なるところがないものというべきである。

また、発行された新株がその会社の取締役の地位にある者によって引き受けられ、その者が現に保有していること、あるいは新株を発行した会社が小規模で閉鎖的な会社であることなど、原判示の事情は、右の結論に影響を及ぼすものではない。

けだし、新株の発行が会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲の法律関係に影響を及ぼす可能性があることにかんがみれば、その効力を画一的に判断する必要があり、右のような事情の有無によってこれを個々の事案ごとに判断することは相当でないからである。

そうすると、本件新株発行を無効と判断した原判決には、商法280条の15の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点をいう論旨は理由がある。

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References   [ + ]

1. 最高裁昭和三二年(オ)第七九号同三六年三月三一日第二小法廷判決・民集一五巻三号六四五頁




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