最平46.11.19|詐害行為取消権の按分可否

判示事項:
金銭の支払を求める詐害行為取消訴訟手続において被告は自己の債権額に対応する按分額の支払を拒むことができるか

要旨:
債権者が、受益者を被告として、債務者の受益者に対する弁済行為を取り消し、かつ、右取消にかかる弁済額の支払を求める詐害行為取消訴訟手続において、被告は、右弁済額を原告の債権額と自己の債権額とで按分し、後者に対応する按分額につき、支払を拒むことはできない。

主    文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。

理    由
上告代理人秋山光明の上告理由第一について。
被上告人は、本件詐害行為取消訴訟において、訴外株式会社宮脇(以下宮脇という。)の上告人に対する買掛債務の弁済は詐害行為であると主張して、上告人に対し、右弁済の取消と右取消にかかる金員の支払とを求め、これに対し、上告人は、抗弁として、上告人は昭和四一年一二月七日の第一審口頭弁論期日に、宮脇に対して有する債権金一〇三九万五一〇三円をもつて、被上告人に対し配当要求の意思表示をしたから、右取消にかかる金員は、被上告人と上告人とがその債権額に応じ按分して取得すべきものとなつたのであり、したがつて、被上告人は、右按分額の限度で支払を請求できるに過ぎないと主張した。しかし、原判決は、右配当要求に関する主張を排斥し、被上告人の宮脇に対する債権額の範囲内で前記弁済を取り消し、かつ、上告人に対し右金員の支払を求める本訴請求は、すべて認容されるべきであると判示した。
所論は、原判決が、上告人の配当要求を理由とした按分比例による配当の主張を排斥したのは違法であると非難する。そして、所論は、そのいわゆる配当要求は、強制執行法上の配当要求ではなく、受益の意思表示であるというのであるが、実定法上、かかる意思表示の効力を認むべき根拠は存在しない。本来、債権者取消権は、債務者の一般財産を保全するため、とくに取消債権者において、債務者受益者間の詐害行為を取り消したうえ、債務者の一般財産から逸出したものを、総債権者のために、受益者または転得者から取り戻すことができるものとした制度である。もし、本件のような弁済行為についての詐害行為取消訴訟において、受益者である被告が、自己の債務者に対する債権をもつて、上告人のいわゆる配当要求をなし、取消にかかる弁済額のうち、右債権に対する按分額の支払を拒むことができるとするときは、いちはやく自己の債権につき弁済を受けた受益者を保護し、総債権者の利益を無視するに帰するわけであるから、右制度の趣旨に反することになるものといわなければならない。
ところで、取消債権者が受益者または転得者に対し、取消にかかる弁済額を自己に引き渡すべきことを請求することを許すのは、債務者から逸出した財産の取戻しを実効あらしめるためにやむをえないことなのである。その場合、ひとたび取消債権者に引き渡された金員が、取消債権者のみならず他の債権者の債権の弁済にも充てられるための手続をいかに定めるか等について、立法上考慮の余地はあるとしても、そのことからただちに、上告人のいわゆる配当要求の意思表示に、所論のような効力を認めなければならない理由はないというべきである。
なお、所論は憲法一四条違反をいうが、その実質は、単なる法令解釈の誤りを主張して原判決の違法をいうに過ぎず、その採用できないことは前述したところによりおのずから明らかである。
以上説示のとおり、原判決が上告人の前記配当要求に関する主張を排斥した判断は、正当として是認すべきものである。
論旨は、採用することができない。
同第二について。
被上告人が、原判示不動産の売却代金中から金九万五〇〇〇円を仮払金として受領したという事実だけで、所論弁済の承認等を内容とする和解契約を追認したものと認めることができないことは明らかである。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官    村   上   朝   一
裁判官    色   川   幸 太 郎
裁判官    岡   原   昌   男
裁判官    小   川   信   雄

~~~~~~

債権総則 詐害行為取消権について

  1. 取消の効果として金銭の支払や物の引渡しを請求する場合は直接債権者に引き渡すことを求めうる
    (大判大10.6.18)
  2. 詐害行為取消の判決に基づき価格賠償を取得した債権者は、他の債権者に分配する義務を負わない。
    (最判昭46.11.19)
  3. 取消訴訟において、受益者は自己の債権額に対応する按分額の支払いを拒むことはできない。
    (最判昭46.11.19)

・例題
A(債権額240万),B(360万),C(120万)は、いずれもDに対する債権者であるが、DがAに対してのみ240万円の弁済をしたことにより無資力となった。BがDのAに対する弁済が詐害行為に該当(DとAが通謀)するとして取り消した。

BはAに対して自分に240万引き渡すよう請求でき、AとCに分配する義務も無く、またAはBに対して自己の債権額に対応する按分額(80万円)の支払いを拒むことはできない。

——

▼ 裁判所HP

最高裁判例昭和37年10月09日→ http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiS…
最高裁判例昭和46年11月19日→ http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiS…

  • Aの「抜け駆け」を認める事は全く認められず、Aは(ペナルティとして)按分額に付いても「吐き出さなければならない」
    (46年判決)

その上で、A・Cが、「私も分け前が欲しい」というのなら、「そのための法律上の手続がとられた」事が必要で、そうされて初めてBが「分配者となつて他の債権者の請求に応じ平等の割合による分配を為すべき義務を負う」のです。(37年判決)

そして、Bが提起した「詐害行為取消し・金員引渡しの訴え」において、Aが口頭弁論期日に Bに対して「配当要求の意思表示」をしても、それが「Bの債権の弁済にも充てられるための手続」に当たるという規定が存在しないから、Aの分配請求は認められないとしたのです。(46年判決)

「取消債権者のみならず他の債権者の債権の弁済にも充てられるための手続」につき、現行法上「分配の時期、手続等を解釈上明確ならしめる規定を全く欠く」ので、Bが「分配者となつて他の債権者の請求に応じ平等の割合による分配を為すべき義務を負うものと解することはできない」とし、事実上 残念ながらA・Cが分配を受ける方法が無いのです。
(法律上義務の無い事を、Bにさせる事は出来ません。)

最高裁は、「法律を作れ」と要求している訳ですが、今に至るまで、行政府(法務省)も、国会(国会議員)も、この要請に応える 政府提出の法律案・議員立法の法律案を国会に上程するに至っていません。

立法論としては、BはAに対して供託を請求出来るに止めるとするか、少なくともBが引渡しを受けた金員を裁判所に提出すべきものとして、A・Cに配当要求の機会を与えるべきだ、と 我妻先生は著書の中で指摘されています。

このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア




シェアする

フォローする