最昭50.12.08|債権譲渡と相殺

 譲受債権請求(最判昭50.12.8)

債権が譲渡され、その債務者が、譲渡通知を受けたにとどまり、かつ、通知を受けるに譲渡人に対して反対債権を取得していた場合において、譲受人が譲渡人である会社の取締役である等判示の事実関係があるときには、被譲渡債権及び反対債権の弁済期の前後を問わず両者の弁済期が到来すれば、被譲渡債権の債務者は、譲受人に対し、反対債権を( )として、被譲渡債権と相殺することができる。

《詳細》

自働債権

《詳細を隠す》

事実

A 会社は Y に対し、弁済期を昭和 42 年 12 月 3 日とする 261 万余円の売掛債権を有していたが、Y は右売掛債権の支払のため約束手形を A 宛に振り出し、これを A の取締役であった X に交付した。ところが、X が右約束手形を紛失したため A に対しその手形金相当額を弁償し、その代償として同年 9 月 14 日に A から右売掛債権の譲渡を受け、Y に同日譲渡通知をした。他方、Y は A に対し合計 170 万円の約束手形債権を有していたが、Aは昭和 43 年 1 月 13 日に倒産したため、期限の利益の喪失により右手形債権の弁済期が到来した。
そして、X が Y に対し右売掛債権の支払を訴求したところ、1 審口頭弁論期日において Y は右手形債権をもって X の右売掛債権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。1審は X の請求棄却。原審も、Y の A に対する反対債権の弁済期が X の譲受債権の弁済期よりも後に到来する場合には、Y は相殺の期待利益を持っていないから、債権譲渡の通知後の相殺をもって X に対抗することはできないとして、X の請求を認容した。Y が上告。

判決理由

破棄自判「本件における問題点は、右相殺の許否であるが、原審の確定した以上の事実関係のもとにおいては、Y は、本件売掛債権を受働債権とし本件手形債権を自働債権とする相殺をもって X に対抗しうるものと解すべきである。そして、本訴当事者が弁済の充当をしたことは原審の確定しないところであるから、民法512条及び491条により、本件手形債権は、先ず本件売掛債権 261 万 4000 円に対する昭和 42 年 12 月 4 日から昭和43 年 1 月 12 日までの年 6 分の割合による遅延損害金 1 万 7188 円に充当され、その残額168 万 2812 円が本件売掛債権に充当されたものというべきである。したがって、X の Y に対する本訴請求は、金 93 万 1188 円及びこれに対する昭和 43 年 1 月 13 日から商事法定利率である年 6 分の割合による損害金の支払いを求める限度において正当として是認すべき
であり、その余は失当としてこれを棄却すべきものである。

しかるに、原判決は、Y は本件手形債権を自働債権とする相殺をもって X に対抗しえない旨判示し、これと同旨の第 1 審の判断を是認しているが、右は、民法 468 条 2 項の解釈適用を誤ったものというべきであり、その違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点の違法をいう論旨は理由があり、1、2 審判決中 Y に対し金 93 万 1188円及びこれに対する昭和 43 年 1 月 13 日から年 6 分の割合による金員の範囲を超えて X の本訴請求を認容した部分は、破棄又は取消しを免れず、右部分に関する Y の上告は理由がないので、これを棄却すべきである。」

債権譲渡と相殺の優劣を判断するために用いられてきたのが、468 条 2 項の「債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる」との規定である。しかし、468 条 2 項は、511 条「支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗できない」との規定と異なり、直接に債権譲渡と相殺の優劣を示すものではない。また、一般債権者の一人に過ぎない差6押債権者よりも、取引を経て優先的独占的な権利を獲得している譲受人の方が、保護の要
請が強い。このことから、今日の学説において無制限説を採用するものはほぼない。また、この 50 年判決は、自動債権の弁済期が受動債権の弁済期に劣後しているにもかかわらず相殺を認めた事例であるが、債務者が原債権者 A 会社の取締役であったという事案
の特殊性ゆえ、最高裁が無制限説を採用したと考える学説は少ない。

このエントリーを Google ブックマーク に追加
LinkedIn にシェア




シェアする

フォローする